ミュンヘンでのレコーディング作業からは、5曲のラフミックス(リファレンス・ミックス)が残されています。
これらは2015年に発売された「Deluxe Edition」のコンパニオン・オーディオに収録され、公式に聴くことができるようになりました。
その中から今回は、本連載のタイトルでもある「Two Ones Are Won」を取り上げます。
「Two Ones Are Won」は、後に「Achilles Last Stand」となる楽曲に付けられていたワーキング・タイトルです。
“Two Ones”を11月(1が2つの月)に掛けた言葉という説もあるようですが、ジミー・ペイジ自身は後年、このタイトルがどこから来たものなのか記憶にないと語っていて、はっきりとは分からないようですね。
この音源は、1975年11月12日にMusicland Studiosで作業が行われたミックスのリファレンストラックです。
当時のスタジオでは、エンジニアのキース・ハーウッド(Keith Harwood)によって以下のようなトラックシートが記録されていました。

レコーダーは24トラックのマルチトラック・レコーダーが使用され、テープのイコライザー規格はアメリカの「N.A.B.」が適用されています。
シートの左上には、「5」という番号が確認できます。他の楽曲にも同様の番号が割り振られています。録音順か、あるいは当初予定していたLPの曲順を表しているのでしょうか。
この楽曲は、幾重にもオーバーダブ(O/D)が重ねられた複雑な構造で知られていますね。このトラックシートはまさにその設計図と言えそうです。
「Two Ones Are Won」の演奏自体は公式版とほぼ同一で、この時点で楽曲の骨組みはほぼ完成していたことが分かります。
一方で、公式版に聴かれるギターのオーバーダブがすべて網羅されているわけではありません。
左右の音のバランス(定位)が未整理で、音が前に出たり引っ込んだりする部分があります。
また、公式版のようなゲート・リバーブや、ボーカルを何重にも重ねる処理(マルチトラッキング)がまだ施されていないため、少なくともこのリファレンス・ミックスでは、ロバート・プラントのボーカルやジョン・ボーナムのドラムが非常に生々しい質感で残されています。
細部を検証すると、ギターソロ直前のロバートの叫び声がそのまま入っていたり、9分12秒付近からの「Ah..」には最初だけエコーがかかっていたりと、最終仕上げ前の段階であることが確認できます。
限られた24トラックを効率的に使うためでしょうか、1本のテープの時間軸(タイムライン)を区切り、前半と後半で同じトラックに異なる楽器やボーカルを割り当てる「タイムシェアリング(時間差上書き)」の手法が随所に見られます(まだトラックが余っているのに。)。
特にトラック9~12は書ききれず、シート二枚を使って、トラックの詳細を把握できるように記載されています。
たとえば、トラック9では、オーバーされた高音のギターのハーモニクスと、終盤のスライドギター、スピードを変えながらオーバーダブされたヴォーカル、12弦ギターによる最後のアルペジオが入っていますし、トラック12では、7 1/2ipsに速度を落として録音されたギターなどが読み取れます。
「あそこの部分はここに入っていたのかな?、こうやって録音していたのか」と、いろいろ想像すると面白いですね。