ちょっと脱線気味ですが、実効垂直録音角と垂直トラッキング角が不一致の場合、どのような問題が起こるのでしょうか?
山本武夫氏が書いた「レコードプレーヤー」という本によると...
- 垂直再生信号に第2高調波ひずみが発生する。
- 複数の垂直信号の場合には混変調ひずみが発生する。
- 左右チャネル間で周波数変調ひずみやクロストークが発生する。
なるほど。なんとなく想像がつきますね。
また、レコード盤に収録された音楽によっては、影響が出やすいものと出にくいものがあるそうです。
左右で別の楽器がなるような、よく分離している音楽は、垂直方向に針が動きやすい音楽なので、影響が出やすいです。
一方で、モノラルか、それに近いほど影響は少なくなります。
これも想像がつきますね。
「レコードプレーヤー」にはいろいろなカートリッジの垂直トラッキング角が紹介されています。
11種類のカートリッジは、16度から30度くらいの範囲でばらけていて、特に20度前後のものが多いようです。
これは垂直トラッキング角を完全に15度に合わせようとすると、角度が浅すぎてカートリッジの底を擦ってしまうという問題が出てくるためです。
仮に底を擦るのを避けようとカンチレバーを伸ばすと、レバーの等価質量が大きくなったり、レバーが撓んでしまうという問題も出てきてしまいます。
結局、多少の歪みは仕方がないとして、レバーの等価質量を小さくし、レバーの撓みにくさを優先させて設計するのだとか。
一方で、M44もそうなのかはっきりとはわかりませんが、Shureのカートリッジは、コイルの設計を工夫して垂直トラッキング角15度を確保しています。これについてはまたしばらくしてから詳しく書いてみます。
これまで実効垂直録音角と垂直トラッキング角を15度に一致させることが重要、と書いてきましたが、ちょっと注意が必要です。
実効垂直録音角が15度に統一されていったのは1964年以降のことです。
しばらくは15度ではない盤もあったでしょうし、それ以前の盤は15度ではありませんでした。
M44が実力を発揮するのは、実効垂直録音角が15度でカッティングされた盤です。
それ以外の盤については、適切な垂直トラッキング角のカートリッジを選択した方が(実効垂直録音角と垂直トラッキング角という観点だけに限っては)、いい結果になる可能性が高いです。
またモノラル盤に関しては、どんなカートリッジでも違いはないように思います。